Fuji Sankei Bussinessi.×ブイキューブ

第12回 2009年2月23日掲載

「ネットが変える日本の教育」~国、教育機関、企業が取り組まなければならないこと~

対談はこちらから、再生することができます。

村井 純(むらい じゅん)
村井 純
慶應義塾大学
村井 純(むらい じゅん)
1955年 東京出身。
慶應義塾常任理事兼慶應義塾大学環境情報学部教授。日本ネットワークインフォメーションセンター (JPNIC) 理事。慶應義塾大学工学研究科博士課程修了。工学博士。1984年国内のインターネットの祖となった日本の大学間ネットワーク「JUNET」を設立。1988年インターネットに関する研究プロジェクト「WIDEプロジェクト」を設立し、今日までその代表として指導にあたる。日本におけるインターネット黎明期からインターネットの技術基盤作りなどに関わり続けている。
間下 直晃(ました なおあき)
間下 直晃
株式会社ブイキューブ 代表取締役社長
間下 直晃(ました なおあき)
1977年 東京都出身。
2002年慶応義塾大学大学院理工学研究科修了。1998年、同大学在学中に(有)ブイキューブインターネットを設立。2001年に事業の本格化に合わせて、株式会社ブイキューブに社名変更。2003年にV-cube USA, Inc.を米国ロサンゼルスに設立。テレビ会議(TV会議)や遠隔セミナー、遠隔教育、遠隔営業ツール、動画配信サービスなど人のコミュニケーションをWeb上で実現する次世代サービスを展開中。

<ネットと教育の在り方>

間下「アメリカではeラーニングなどのネットを使った教育というのは非常に発達していると思いますが、日本における状況はいかがでしょうか?」
村井「面白いのは、ネットワークの発展の歴史を見ると、ネットが教育を変えるというより、教育の現場からネットワークが発展してきているんです。アメリカでネットワークが社会に発展したきっかけはカリフォルニアで起こった「ネットデイ」と呼ばれる市民活動です。そのひとつには、地元の小学校の子供たちにネットワークを経験させたいという目的がありました。面白い例でいえば、ネズミの尻尾にイーサネットのケーブルをつけて、チーズを屋根裏に置き、ネズミを放す。するとネズミが屋根裏にケーブルを張っていく。楽しみながら、小学校のネットワーク化を進めたのですね。ボランティアによるネットデイ構想は国の目にとまり、全米のアクションへと広がりました。ここにふたつの重要な点があります。まず、教育の場においてネットワークとコンピューターはとても大事だということ。それから、その推進をするのは現場の当事者だということ。そして、これらの動きがすごく早かったことも大きな意味があります。それが日本では中々難しい。例えば僕らは小学校対象のホームページコンテストを6年やっていますが、はじめは非常に苦労しました。最初、何人かの現場の教頭先生や校長先生、そして教育委員会などに話しかけたところ、お互いに気にしてYESと言いにくい。だから勝手に評価して、「おめでとうございます。あなたの学校のホームページが県で1位になりました」と連絡する仕組みにしました。ところが、1年目はメールを送っても辞退される所も多くありました。その後、全国の新聞に県ごとに選ばれた学校の名前を出して頂いたんです。断った人は、しまったと思ったでしょうね。2年目からは認知度もあがり、ものすごくやりやすくなりました。日本は教育の中にプロセスが多すぎて、「参加しますか?」と聞くと、なかなか意思決定に至らないわけです。それが今では授賞式がNHKのニュースで放映されるまでになりました。日本とアメリカではやり方は全然違いますが、学校の中でコンピューターやネットワークをうまく利用していこうという方向に関しては同じだと思います。子供たちや教師たちの力、コンピューターやネットワークの教育にとっての重要性は世界共通だと思います。ただ、教育というのはレギュレーションが各国バラバラなので、その発展の仕方が国ごとに違ってきます。実際に、色々な習慣、レギュレーション、忙しいカリキュラムの中で先生たちがどれだけ時間を割けるか、先生たちがパソコンやインターネットにどれだけの知識を持っているのかなどと、心配だった時もあります。けれど、日本では経験が蓄積されてきたし、これからは大丈夫だなという感触を持っています。」
間下「やはり人々のマインドが少し変わってきているということですか?」
村井「インターネットやコンピューターは「特別な物」という感覚から、「あって当たり前の物」という風に変わってきたと思います。やはりここが一番大きい。だからこそ今、反発も多いですよ。子供達に携帯電話を持たせないようにしようとか、インターネットはよくないとか。今の段階では心配ないという安心感をもてる環境を作ってあげることが重要で、それが我々の責任だと思います。」
間下「日本における教育って、大きく分けると初等、中等と、いわゆる高等…大学や大学院とか言われる物、あと生涯教育がありますよね。インターネットを利用した教育が一番発展しやすいのはどこでしょうか?」
村井「インターネットを利用した教育はどこにおいても重要であり、それぞれに違うニーズと違う課題があります。初等教育においては、情報に簡単にアクセスできすぎるという課題があるかもしれませんし、大学になると、あらゆることを調べて学ぶ方法が重要になってきます。また、様々な事情で学校に行けない子供たちが沢山います。入院もそうですし、不登校の子供が復学しにくくなる理由のひとつは勉強の遅れです。遠隔で授業に参加できるようになっていたら、そのハードルが下がる。教室にいなくてもきちんと勉強ができますし、また地域的な問題も解決できます。オーストラリアだと人口密度が低いため、過疎地に住んでいる人たちは小学校の教育を遠隔でやって良いという例があります。」
間下「我々でも日本国内で、アットマークラーニングさんが運営しているオンラインの高校に仕組みを提供させていただいていて、実際に何らかの理由で学校に行けなくなった子供たちが、オンラインで授業に参加したり、オンラインセミナーに参加したりしていくうちに、最終的には卒業式に出てスピーチできるようになるんです。卒業式にも参加させていただいたんですが、あれは感動しました。」
村井「インターネットやコンピューターでの教育に懐疑的な人たちは、face to faceの教育は本当に大事なんだ、人間の温かみが大事なんだということをよくおっしゃいます。確かにその通りだと思いますが、問題はそこにいたるプロセスだとか、あるいはその補完をするという部分なんですね。様々な理由や地理的な問題で学校に行かれない子供たちが、いつでもその難しさを乗り越えて教育に参加できるチャンスが増えるということが、非常に価値がある事なんです。」
間下「やりたいのにできない人ってたくさんいますものね。途上国なんかも、教育を変えなかったら、いくらお金を渡しても変わらないじゃないですか。根本を変えないと絶対に伸びていかないだろうし、先に繋がらないと思います。」
村井「医療と経済と教育が、情報のインフラの大きな使命になって行くという事。インターネットの世界では、ネットワーク環境が悪いところでこの3つを回せるかということが、ずっと課題なんです。教育あるいは医療の現場で使えるのか、銀行など経済に使えるのか。これをそれぞれ調整しています。3つの領域を一緒に高めていくことは非常に大事なんです。」

<日本、慶應義塾大学が果たすべき役割>

間下「その中で、日本や慶應義塾が今後果たしていかなければいけない役はどういったものなのでしょうか?」
村井「色々な難しさの中でも、日本という国は、ネットワークの環境やコンピューターの環境を使いこなす力はすごいと思うんですよ。そこで教育の環境をきちんと整える事が、結果、大変大きな貢献になるということは、今までの歴史から証明されています。慶應はそうした中で、150年という一番長い歴史を持っています。150年前というと日本はまだ鎖国中であり、世界に広がっていくグローバルな環境の中での日本という立ち位置で見れば、今の時代と似ていると思います。インターネット、情報環境等々で経済や医療も含めて、グローバルな空間で日本がどうなるのかという事をきちんと考えなくてはいけない。そういう時に、日本、あるいは慶應大学の教育が持つビジョンや夢が、今、きわめて大事な時期に来ているのではないかと思います。」
間下「我々も慶應大学発ベンチャーという事でしっかりやっていきたいです。今日お話伺って、教育の世界においてビジネスをしていく、その社会的意義、存在意義みたいな物を改めて認識させていただきました。今後も色々と頑張っていきたいと思います。」

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